相続・事業承継分野でAIを活用する企業や取り組みは、金融機関、システム開発会社、コンサルティング会社など複数のプレイヤーに広がっています。主な事例を以下に紹介します。
金融機関によるAI活用
横浜銀行は、2027年1月末から生成AIを活用した「相続人特定支援システム」の利用を開始します。このシステムは、プリマジェスト社との共同開発によるもので、相続人の特定作業をAIで支援するものです。
国税当局も、2025年7月から相続税の税務調査にAIを活用しています。このAI分析は主に2023年に発生した相続事案を対象としており、富裕層以外にも調査対象が広がる可能性が指摘されています。
横浜銀行の相続人特定支援システムの仕組みは?
横浜銀行の「相続人特定支援システム」は、キヤノンマーケティングジャパングループのプリマジェストが開発し、2027年1月の稼働を予定しているシステムです。横浜銀行と共同で実施したPoC(概念実証)の成果をもとに開発されました。
システムの仕組み
基本フローは、戸籍謄本などの相続関連書類をスキャンすると、生成AIが相続関係図(家系図)の作成と相続人の特定を支援し、担当者が画面で点検・確定するという流れです。さらに、印鑑照合や審査完了後の書類保管までを一つのシステムで一気通貫に支援します。
AIの解析範囲には限界が設定されています。昭和以降の戸籍はAIが解析しますが、旧様式の戸籍は行員が補完します。また、役席者による全件確認を残し、相続人の特定をAIだけには委ねない設計です。
4つの特徴

本システムは、銀行の相続事務を「最後まで完結させる」ための4つの強みを持っています。

- 紙の書類から始められる:プリマジェストオリジナルスキャナ「IOH」で、戸籍謄本などの相続関連書類をホチキス止めのまま取り込み、書類の種類をAIが自動で仕分けします。
- 印鑑照合まで一体で行える:印鑑登録証明書の印影を基準に、相続手続依頼書・委任状・遺産分割協議書の押印を自動で切り出して照合します。
- 審査を最後まで完結できる:初鑑・再鑑の点検、不備があった場合のお客さま向けレターの出力、後から届いた書類の案件への統合、審査完了後の既存ファイリングシステムへの連携までを一つのシステムで扱います。
- 戸籍の情報を金融機関内で扱える:生成AIの稼働サーバーを含めて金融機関内に構築できるため、機微な個人情報である戸籍の情報を外部のAIサービスへ送信せずに運用できます。
導入の背景と効果
日本の年間死亡数は2024年に過去最多の160万5,378人に達し、2040年頃には年間約167万人でピークを迎えると見込まれています。金融機関の相続手続きでは、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を読み解き、法定相続人を特定する作業が欠かせませんが、旧様式の戸籍の判読や転籍・改製をまたぐ戸籍の連続性確認には高度な専門知識が必要で、紙の現物を使った手作業に頼る運用が残っていました。
本システムは、熟練者の点検観点を点検リスト・ハイライト・アラートとして画面に組み込み、AIが下書きした相続関係図を担当者が確認する形で業務を進めます。これにより、経験の浅い担当者でも一定の品質で点検でき、新任担当者の育成期間を短縮できるほか、熟練者は判断の難しい案件や後進の指導に時間を振り向けられるようになります。
課題は相続人特定支援システムの導入で担当者育成期間は短縮
プリマジェストの発表によると、本システムは熟練者の点検観点を点検リスト・ハイライト・アラートとして画面に組み込み、AIが下書きした相続関係図を担当者が確認する形で業務を進めるため、新任担当者が一人で業務を担えるようになるまでの育成期間を短縮できるとされています。
さらに同システムでは戸籍解析だけでなく印鑑照合まで行える。
https://news.infoseek.co.jp/article/prtimes_000000069_000061696/
デジタル化により処理を効率化だけでなく、相続人を割り出すにも時間と労力が節約できるようになります。
そして、紙の受付から審査・保管まで銀行の相続事務を一つのシステムでまとめる形になります。
現在の年間相続市場規模はおよそ40~50兆円です。しかしこれは「相続税対象外」の金額も含まれておりますが、2024年分の相続税申告における相続財産総額が24兆5,415億円とのことです。
2040年をピークに増え続ける死亡者数を想定するとさらに総額が増えるだろうという見込みでもあります。
育成期間短縮の仕組み
従来、担当者は戸籍を読み解き相続関係を入力する「初鑑工程」を手作業で行っていましたが、本システムではAIが作成した関係図の確認へと置き換わります。これにより、以下の効果が期待されています。
- 経験の浅い担当者でも、画面の案内に沿って一定の品質で点検できる
- 新任担当者の育成期間を短縮できる
- 熟練者は判断の難しい案件や後進の指導に時間を振り向けられる
- 点検の観点がシステムに残るため、担当者の異動・退職があっても業務品質を維持しやすい
留意点
育成期間の短縮はプリマジェストによる期待効果として示されているものであり、導入後の実績や処理時間・人員の削減率として公表された数値ではありません。また、横浜銀行の運用では、生成AIが昭和以降の様式を解析し、明治・大正期など古い様式は行員が確認・補完します。役席者は全案件を確認するため、相続人の特定をAIだけに委ねる設計ではない点にも注意が必要です。
そこで、3点視点(社会的要点)を考えると
- 良いこと:AIが定型作業(戸籍の読み取りや関係図作成など)を効率化することで、担当者がより重要な判断業務に集中でき、熟練者の知識共有やプライバシー保護(行内サーバーでの処理)につながる。
- 悪いこと:AIの確認作業や古い戸籍の処理などは引き続き人手に頼る必要があり、効率化や育成期間の短縮効果はあくまで現時点での「期待値」にすぎず、システム導入の負担も発生する。
- ヤバイこと:AIの誤読をそのまま信じ込んでしまったり、効率化のプレッシャーで確認作業が雑になったり、担当者のスキルが育たなくなったりするリスクがある。

結論として、このシステムの価値は「AIが相続人を決めること」ではなく、戸籍解析を支援しながら人が検証できる仕組みを整えることにあります
。効果を判断するには、導入後の処理時間だけでなく、誤りの検出状況、例外案件の扱い、熟練者の確認負担、情報管理の実態も見る必要があります。